column 2017.9.11
 
Rトピックス

神戸R不動産のこれまでと、これから。

小泉寛明(神戸R不動産/有限会社Lusie)
 
「脱東京」が最初のテーマだった

神戸R不動産が誕生してかれこれ6年半が経過した。2011年4月にスタートした頃はリーマンショックの余波もあり自分の気持ちも世論も少し混沌としたように記憶している。過剰な資本主義や極度な東京への集中に疑念を感じ、掲げたオープン当初のテーマは「脱東京」。東京以外の移住選択肢としての神戸という場所の提示だった。当初は事務所を設立した北野エリアの外国人マンションを中心に物件を紹介。またサイトスタートの直前に東日本大震災や福島原発事故があり、関東から西日本への人口移動ムードが高まり、その中で神戸を選択されたお客さんが多くおられた。

2011年4月のオープン時に神戸とポートランドを重ね合わせて「神戸・PORTLAND化計画」というコラムを執筆。このコラムを読んで神戸に移住したという声を後から聞いて、嬉しかった。

こうしたオープン直後のお客さんの多くはイラストレーターやIT系のフリーランスの人たちでどこでも仕事ができるノマド族と呼べるような人たち。移住後プライベートでも親しくさせて頂いた方々が多く、行動の早い、ある意味社会を鋭く読む力のある人たちから、神戸R不動産の今後の方針を固めるたくさんの刺激を受けた。

移住者のためのシェアオフィスを開設

地図の発刊のために神戸の地形模型づくりを大学生の方々と行った日々が懐かしい。

そして当時、こうした動きを加速させられないかと、1年間の労力をつぎ込んで「KOBE MAP for NOMADS(神戸移住のための地図)」を発刊した。
このMAPの発刊後、ノマド族の人々に続く神戸移住の2度目の流れがやってくる。サイトスタートして2〜3年経過したこの頃に移ってきた人たちは、編集者、建築家、ブランディングコンサル、写真家などのクリエイター。先ほどのどこでも仕事が出来るノマドワーカーとは違い、多少はローカルなクライアントとも付き合いが必要な人たちであり、仕事上、場所に一定の制約を受ける人たちだった。1年ぐらいかけて何度も神戸に足を運び、徐々に仕事を作りながら、ある意味、用意周到に、計画的に移動してきた。この頃の人たちの多くが言ったのは、「神戸に移ってきて環境も良くなるし家族と和やかに暮らせるのも良いのだけど、家で仕事するのはちょっと……。小泉さん、シェアオフィスつくってよ」。当時、東京ではシェアオフィスができつつあったが、神戸のような地方都市でシェアオフィスが成り立つのか、まずは実験的に始めようと、当時自分が住んでいた部屋をDIY改修し移住者限定の小さなオフィス(「kitanomad」)の運営を始めることにした。

実はここは以前自分で住んでいた家。空いている時間をぬってDIY。シェアオフィスに改装した。

神戸R不動産のオフィスがある北野エリアの風景。(撮影=片岡杏子)

北野の外国人マンションは個性的なつくりをしているものが多く、今でも僕たちのホームグラウンドとなっている。たくさんの方々の移住をお手伝いをさせて頂いた。(撮影=片岡杏子)

人が人を集める

この頃、『全国のR不動産』という本が出版されたこともあり、初期のお客様に「当時なぜ神戸を選択したのか」ということをインタビューさせてもらう機会があった。さまざまな答えをいただいたのだが、その中で印象に残っている回答が、「もちろん物件が一発で気に入ったってのもあるのだけど、やっぱり人だよね。何人か知り合った人でこの人となら付き合えるって人がこの街にはいたんだよ。人が人を集めるんだね」と。なるほどと思った瞬間だった。やっぱ人ですよね。

2014年に発売された『全国のR不動産』では、北野の外国人マンションの屋上が表紙に。実は僕が元々住んでいたマンションで、僕らが引っ越した後に、東京からの移住ファミリーが移り住んだ。

住み働く場として東京以外の場所を選択肢にしてもらうには、神戸単独で活動していてもできることも限られている。また不動産情報の提供だけでは限界もあり、特に「人」との出会いの機会を作るメディアが必要ではないか、そして東京で企画執筆されたものではないローカル発のメディアが必要ではないかとぼんやり考えていた。そのことを全国のR不動産を運営する仲間の人たちに聞いてみると、皆ほぼ同じことを考えていた。ということもあり、R不動産の姉妹サイトとしてreal localを2014年に協力して始めることになった。

公共的な仕事も増えた

そしてこの頃から、共同作業というものを強く意識するようになる。シェアオフィスにも徐々に移住者が入居し、北野エリアはまさに「人」が「人」を集め始める状況になった。そして移住してきたメンバーと共同作業をするようになる。神戸市の仕事にも応募し、神戸市の移住サイト「KOBE live+work」やDIY啓蒙サイト「みんなでつくろう」、さらには神戸市の農水産物地産地消啓蒙サイト「EAT LOCAL KOBE」の運営をすることとなり、その流れから、神戸におけるファーマーズマーケットの運営組織を共同で立ち上げたりすることにも発展した。

神戸市の移住プロモーションサイト「KOBE live+work」。

神戸市の空き家活用啓蒙サイト「みんなでつくろう」。

神戸市の農水産物地産地消啓蒙サイト「EAT LOCAL KOBE」。後にファーマーズマーケットを始めるきっかけとなる。

エリアデベロップメント〜エリアを耕す

不動産業を行っていると当たり前だがお客さんからこんな場所を探していると言われることが多い。残念ながら我々が取り扱う物件は一点物なので、基本、希望を聞いて物件探しをすることがないのだが、稀に出会った人との会話からピンときてそれがエリアの開拓のきっかけになることがある。

大阪の家具工房で働いていた職人さんからの物件希望は「家具屋として独立したい、音の出せる工房とショールーム的なものを両方持てる場所がないか」というものだった。なんとなくそこでピンときたのが、純粋にかっこいい空間だなーと思って日々眺めていた阪急灘高架下の空間。この言葉がきっかけでこの灘高架下のリーシングを行うようになる。インフラも何もない、単なるコンクリートの橋桁空間に興味を持つ人たちがポツポツ現れる。

DIY設計建築集団「TEAMクラプトン」の工房。写真はメンバーの誕生日パーティーの様子。

東京からUターンしてきた靴工房・アンカーブリッジ

バレエダンススタジオBOX169。オープニングパーティーの様子。

この動きを進めた担当の神戸R不動産・西村くんは途方もない物件の数を案内し、借り手と貸し手の意見調整に調整も多大な労力を費やした。諦めそうになるタイミングもあっただろう。が、一つ一つ個性的なユーザーが現れて、今では少しずつエリアとして形になりつつある。

もう一つ、出会った人の声が物件探しのきっかけになったケースがある。real localで取材した料理研究家の方から、「田畑仕事ができてそこで料理を加工し、神戸の中心部にもアクセスが良い農村の古民家物件を探している」と聞き、神戸市北区や西区などで我々の農村物件探しが始まった。そうして物件探しをしている最中、担当している岩崎くんは面白い物件を見つけ本人がまず神戸市北区に引っ越しをしてしまった。農村地域の物件探しはまだ始めたばかりの活動であるが、徐々に物件も紹介できるようになってきて、成約もし始めている。

神戸Rのメンバー・岩崎くんが移り住んだ神戸市北区の家。陽が入らないほど鬱蒼と木が生い茂る庭を1年かけて整理。

神戸市北区の古民家に移住されたお客さんの家。インタビューはこちら

こうして振り返ると北野、灘高架下、農村エリアなど、物件の眠っている特定のエリアにフォーカスして物件を紹介し(他にも塩屋エリア、六甲エリアなどの物件も数多く紹介した)、ある意味そのエリアを耕す作業を行っている感覚がある。

コーポラティブ・エコノミー

そして今、神戸R不動産がスタートした2011年から今までの時間を思い起こすと、東京という場への過剰な集中は少し和らいだような気がする。僕らが20代の駆け出しだった頃は東京が絶対的な仕事の中心地で、そこにいないとエキサイティングな仕事ができない、地方にいること自体が、ある意味落ちぶれた感があった。今日は、東京以外で暮らし働くということが当たり前になり、仕事でも地方都市にいても東京や大阪といった大都市でする仕事と同じぐらい楽しい意義のある仕事ができるようになってきた気がする。というか、家賃が高く稼ぐことが求められる大都市での仕事に比べると、稼ぐことよりも社会性を求められたり、スケジュールの制約も緩やかな条件で仕事ができる地方の方が、面白い仕事のチャンスが多くなってきたのではないか、そんな風にすら感じている。とはいえ、地方ならどこでもいいってわけではない。僕たちは面白い活動の集積が起きそうだという特定のローカルエリアを探し、紹介し続けたいと思う。

と、ここまでは今までの話。話をこれからのことに移す。

我々神戸R不動産のスタッフは、R不動産のお客さんとなにかを一緒にできないかと常に考えている。北野のシェアオフィスのスタートも移住された人たちの声からだったし、灘高架下もクラフトマンたちの声から始まったし、一緒になって高架下OPEN NIGHT高架下OPEN FESなどのイベントを定期的に行っている。神戸市北区の農村でも活動を少しずつ出会った人たちと始めている。

この数年で気づいたのは、一緒に働いたりすることが生み出す刺激。今意識しはじめているのは同じような意思を持つ人たちが一緒に働いたりする中で生まれる小さな違いや刺激が、それぞれの意識を覚醒させ、少しずつうねりのような動きになるのではないかということ。世の中的にはシェアリング・エコノミーと呼ばれていることかもしれないが、個人的には企業的支配感を感じるシェアリング・エコノミーという言葉ではなく、共同組合的であり、コーポラティブ・エコノミーという言葉の方がしっくりくる感じを持っている。実際、R不動産はある意味、多くのスタッフがフリーランサーとして関わる組織として、そもそも共同組合的でもあるし、real localのサイトも複数のエリアによる共同運営形態。2年前から始めたファーマーズマーケットの組織は、農家や飲食店、食物販事業者が会員となる一般社団法人KOBE FARMERS MARKETを設立し、COOP的な運営をしている。

僕や一部の神戸Rメンバーが参加しているファーマーズマーケット。一般社団法人KOBE FARMERS MARKETという法人を設立し、たくさんの関係者と共同運営している。

このコーポラティブ・エコノミーづくりを不動産と掛け合わせて、これから皆さんのお役に立っていけないかと考えている。これからもR不動産を通じた出会いを楽しみにローカルを開拓する「ローカルエリア・デベロッパー」として活動して行きたい。

末長いおつきあいよろしくお願いします!

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