2018.7.26

 

神戸市北区での暮らしはどうですか? - 住宅地編 -

岩崎大輔(神戸R不動産/Lusie inc.)
 

(前回のコラムから続く)

神戸市北区の暮らしにスポットをあてるコラム。今回は神戸市北区の住宅街で家具店を営むご夫婦にインタビューをしてきました。

「CACHITO FURNITURE(カチートファニチャー)」を営む清水智之さん(左)と綿貫カンナさん(右)ご夫婦

あえて、山の中に拓かれた住宅地で家具屋を営む。

神戸市北区緑町。僕が暮らす鈴蘭台の少し北に位置するこの街は、 昭和30年代後半から開発され始めた住宅地で、まだそこかしこに当時の面影を感じることができる。

神戸市北区緑町は、神戸中心部・三宮から電車や車でも約30分の距離。(画像 ©2018 Google、地図データ ©2018 Google、ZENRIN)

神戸中心部・三宮から電車や車で約30分ということもあり、神戸の中心市街地で働く人々のベッドタウン的なイメージがあるが、あえてこの郊外エリアで家具店を営んでいるご夫婦がいる。「CACHITO FURNITURE(カチートファニチャー)」の清水智之さん、綿貫カンナさんご夫婦だ。

家具店「CACHITO FURNITURE」外観

ご夫婦に話を聞きました。

ーーこの場所でお店をされている理由を知りたいのですが、北区ご出身なのでしょうか?

智之さん:北区出身ではありません。僕は大阪出身で、北区には少し遊びに来ることがあったくらいでした。

カンナさん:私は、生まれも育ちも兵庫区の湊川です。お客さんからも「なぜ北区?」って聞かれます。「地縁があるの?」とか。

ーー地縁ではないとすると、どんな理由があったのでしょうか?

カンナさん:一番の理由はゆったりとした時間の流れを持った場所で、長く使ってもらえる家具を紹介したいからですね。それで北区がいいんじゃないかと思って物件を探していたところ、降り立った神戸電鉄有馬線「山の街駅」周辺の“ジブリ映画”に出てきそうな感じにビビッと来たんです。

神戸電鉄「山の街駅」の様子

ーー山の街駅の雰囲気は本当にノスタルジックで素敵だと思います。それが決め手だったんですね。

カンナさん:こっちに来て気づいたんですけど、空がすごくキレイなんです。高いマンショ ンがないからなのか、空が広くて。空気も美味しいですね。

智之さん:お店も少ないですし、ご近所の電気も10時くらいには消えているので、満月の明るさに驚きますよ。その中を歩いて家に帰るときが、 本当に気持ちいいんです。都会に出るのも不便はないけど、静かで穏やかな暮らしもでき自然の中で遊ぼうと思えば身近にいくらでもある、という立地が気に入っています。

世代を超えて大切にされる家具

CACHITO FURNITUREさんの納品例。手前のテーブル&チェアと奥の食器棚を、部屋の雰囲気に合わせてコーディネートされた。(提供=CACHITO FURNITURE)

ーー「長く大事に使えるモノを大切にする」という考えを大切にされているとのことです が、お客さんもそういった考えの方が多いですか?

智之さん:そうですね、親の代、あるいはもっと前の代から受け継いで使っているという家具を「自分にとって大切なものだから、また気持ちよく使えるようにしてリペアして欲しい」という方はすごく多いですね。
100年前の文机(ふづくえ※)とか、大変に貴重な物を見せてもらうこともありました。 確か、夏目漱石が使っていたのと同じようなモデルでした。自分たちが作った家具も、数十年後に直して欲しいって言われたいですね。
※文机……書物や読み物をするために座敷に置いて使う机

カンナさん:新しい家具を買われる方からも「自分の子どもや孫の代にも受け継がれるような、長く使える物だったらいいな」と言っていただくことが少なくないです。

“カチートロス”にご注意

店内の打ち合わせスペース。ここで納品後にお客さんとお茶を楽しむことも。

ーーどれくらいの世代のお客さんが多いですか?

カンナさん:30〜40代くらいの方でしょうか。一戸建やマンションの購入やリフォームのタイミングで「家具を」という方が多いです。

智之さん:家具屋ってお届けした後はお店に来て頂くことが少なくなるんですけど、購入頂いた後もお店に来てくださるお客さんがいてくれて、それがとても嬉しいです。

カンナさん:そうそう、「カチートロスになったわぁ」って言ってくださる方もいて、お茶だけでも飲みにきてくださいよって言ってます(笑)

ーーおふたりは、どのように役割分担されているのでしょうか?

カンナさん:オーダー家具のデザインや製作は夫で、私はインテリアコーディネートや、接客を担当しています。夫が普段「木」とばかりおしゃべりしているので、お客さんにうまく説明できないことがあるんです (笑)

智之さん:妻が通訳してくれます(笑)

お店と世代がミックスして起こるマジックを

取材中にたまたま訪れたお客さんを見送るおふたり。距離感の近いコミュニケーションが垣間見れた。

ーー北区の住宅街がこんな風になっていけばいいな、と思うところはありますか?

智之さん:もっと世代のミックスが起こって欲しいですね。この辺りのご高齢の方は、すごい技術や知識を持っている人が多いんです。 例えば、DIYが得意と言いつつ家まで建てられるような人や、造船関係の方、虫にものすごく詳しい方とか。
そうした経験豊富な方たちと子育て世代の人たちの交流が増えたり、もっといろんな世代でわいわい交流できたら、この辺りはもっと面白くなるだろうなと思ってます。

カンナさん:あとは、もっといろんなお店が増えると単純に嬉しいですね。

ーー戸建が中心の住宅地で店舗を建てたり既存の戸建を店舗に用途変更するのは、制約が多く実現困難な仕組みになっていますが、住宅地の中にある普通の家をお店に変えていけたら、面白いですよね。

智之さん:面白いですよね。いろんなことができますよね。

カンナさん:私は、この辺りの歩いて行けるところに、おしゃれなカフェができたらなと妄想しています(笑)

ーー仕事とプライベートが一体というか、いい意味で公私混同されていて素敵ですね。

智之さん:そういう感覚をわかってくれる人、好きです(笑) 僕は、家具の事を考えるのが楽しいので、自然と休みがなくなりました。

カンナさん:夫婦一緒に仕事をしていることで、お客さんが喜んでくれる瞬間を共有でき感動を分かち合えるのがすごく嬉しいです。納品の帰り道がドライブになったりもしますよ(笑)

ーーおふたりの話を聞き北区に越してシゴトと暮らしを一体化して楽しまれていことのがよく分かりました。今日はありがとうございました。

生き方に仕事を合わせる

神戸市北区に移住するだけでなく、そこで仕事を始めた智之さん・カンナさんご夫婦。事業を始める場合、一般的にはマーケティングなどを重ねて“商売をやっていけるかどうか”を判断軸とするが、お話を伺っているとおふたりは“自分たちの心地よさ”に重点を置いているように感じた(もちろん精査はされていると思うが)。さらに言うと、“自分たちが心地よいと感じる場所をつくれば、自然と人が来る”という自信さえ垣間見えた。

なぜこのような意思決定ができたのだろう?そう考えた時、「住みながら働く」というキーワードが頭に浮かんだ。

「山の街」のような都市と程よい距離感の住宅街は、暮らしと仕事を区別せず、家族との時間を大切にしたいと考えている人にとってちょうどいい場所であり、市街地と比較して家賃も手頃だったりする。

仕事に合わせて住む場所を選ぶのではなく、心地よく生きていくために働き方を調整する。そういった視点で、これからお店を始めたい方やアトリエ兼住居などを探している方は、ぜひ北区の住宅街を候補に入れてみて欲しい。

現在募集中の神戸市北区で住みながら働ける物件(2018.07.17現在)
小道のトリプルハウス
山のような庭を手に入れる
シュールなあいつ
表の顔、裏の顔
農村の異端児

 
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このブログについて
 

山と海に囲まれた街、神戸に移り住み5年。引越魔だった私が神戸に定住できたのは、この街の居心地がとても良いから。 そして神戸で会社を始めたのも、この街に住み続けられる仕事というのが大前提にあったから。居心地のわけをお伝えして参ります。


著者紹介
 

小泉寛明(神戸R不動産/Lusie Inc.)
小泉亜由美(神戸R不動産/Lusie Inc.)
西村周治(神戸R不動産/Lusie Inc.)
岩崎大輔(神戸R不動産/Lusie Inc.)

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