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2025.11.11
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これから神戸のどこに住む?

岩崎大輔(神戸R不動産/株式会社緑青舎)
 

「これからの家」について考えています。11/30に鈴蘭台にて、暮らしを妄想し物件を見学するツアー&トークイベントも実施します。

いつの間にか僕たちは、自分たちでつくることから距離を置き、消費するばかりになっていた。

家はできあがったものを購入し、修理が必要になれば業者にすべてを任せる。食べ物も、誰が・どこで・どのように作ったのかを知らないまま、毎日スーパーなどで買っている。近年は地価や建築費の高騰、金利の上昇などにより、とりわけ都市部で家を手に入れることが難しくなりつつある。さらに気候変動の影響で、米や野菜といった食料の供給も不安定になり、これまで「当たり前」だと思っていたことが脅かされるようになった。そうした状況のなかで、それらをただ受け入れるしかない自分の無力さを痛感したのは、きっと僕だけではないはずだ。
そしてふと、まちの真ん中で暮らし続けることには、この先、限界があるのではないかと思った。

「暮らす」家から「使う」家へ

神戸R不動産では、都市部以外の神戸の魅力もさまざまな形で紹介してきたが、その中でとりわけ印象的だったのが、山や農村に不動産を所有するオーナーの生き方だった。道具を使いこなし、その土地にあるものをうまく使いながら身の回りのものを自分でつくり、仲間とシェアしながら暮らす。そんなたくましさや人とのつながりに惹かれ、気づけば、不動産の取材だったはずが、いつの間にか建物よりもオーナー自身に関心の焦点が移っていたこともあった。

ところで、僕らは稼いだお金を一体何に使っているのだろう?一般的には、住居費・食費・光熱費で全体の半数近くを占めると言われている。そう考えると、家・食料・エネルギーをある程度自分たちで賄うことができれば、お金に縛られず、もっと自由に暮らせるのではないかと思えてくる。

4人家族が食べる分の野菜を育てられる広い畑、太陽光パネル、井戸、薪ストーブ。土間キッチンと畑がダイレクトにつながる、そんなミニマルな家をコンセプトにした「FARM HOUSE」。

僕らは昨年、「FARMHOUSE」というプロジェクトを始めた。その背景の一つには、資産やデザインとしての家ではなく、”暮らしをつくるための道具”としての家こそが、これからの時代に必要だという考えがある。たとえば、住宅ローンで購入した家で食べ物やエネルギーを生み出したり、住みながら小商いで収入を得られれば、ローンも「負債」ではなく「ポジティブな投資」として捉えられるかもしれない。「災害に見舞われても、この家さえあれば生きていける——そんな家を建てたい!」というオーナーの言葉が忘れられない。

神戸市北区有野町の山あいに残っていた広い庭付きの古家を再生し、解体予定だったその建物からレスキューした古家具・古道具・古材を販売しながら小さなカフェを営んでいる「地域資源の循環とキャンプ 山脈」。オーナーは大阪から家族で移住してきた。オフグリッドキャンプサイトもまもなくオープンの予定。

「FARMHOUSE」を始めた背景のもう一つとして、「土地のポテンシャルを可視化したい」という思いがある。
建物が建てられない土地は価値がないと思われがちだが、枯葉や雑草がやがて腐葉土となり、食べ物を育む循環を理解すると、土地は豊かな資源に見えてくる。

2024年から始まった、自給自足的庭づくりをテーマにした講座「DIY GARDEN SCHOOL」。左:土地に大きな穴を掘り、刈った草を放り込み土と混ぜるだけで、やがて野菜づくりに必要な腐葉土が生まれる。右:伐採で行き場を失った大量の竹を柵へと転用。

広い土地を手に入れる

「暮らしを自らつくるための土地」は、どこにあるのだろうか。都市部に暮らす人がいきなり山頂や農村に移住してゼロから始めるのは現実的ではない。そこで、神戸の中心市街地から電車や車で30分圏内の山あいの住宅地に目を向けてみたところ、都市部より何倍も広い土地に、まだまだ使える古家付き物件が手ごろな価格で流通していることに気づいた。それが、僕が10年暮らしている「鈴蘭台」という町だった。

昭和初期に開発された鈴蘭台は、新開地駅まで電車で15分弱とアクセスがよく、当初は避暑地的な、高級・高原住宅地として誕生し、「関西の軽井沢」とも呼ばれていた。駅周辺は坂が多く地形も入り組んでいるため、大規模な開発の波を逃れ、大きな庭付き一軒家が今も残っている。僕の家もその一つで、昭和11年築の和洋折衷の平屋が約860坪の森に埋もれるように佇んでいた。

左上:毎日登山のメッカ「菊水山」から鈴蘭台のまちなみを眺める。/右上:僕の家。左下・右下:昭和初期の鈴蘭台界隈の家。

標高約300m。夏は樹木に覆われ、土地の高低差により風が抜ける。大阪市内より約4度、神戸中心部より約2度涼しく、エアコンの使用頻度も少ない。猛暑が続く今、夏の暮らしを中心に家を考えることはとても重要だ。

高原の植生も豊かで、山菜が自生する。そして、2年前からは竹林を整備し、家の脇に小さな畑をつくって暮らしている。

広い土地があれば、住宅地でも農業ができるし、DIYで直した古家を使って商業地にはないユニークな商いも可能だ。オフグリッドな生活を試みたり、木を植えて自然と共生する家づくりも実現できるだろう。

神戸中心部と比べると歴史の浅い鈴蘭台だが、大規模な開発の波を逃れた大きな庭付き一軒家は、貴重な鈴蘭台の地域資源であり、空き家となって次の主が現れる日を待つ物件も存在する。その利活用を後押しするため、神戸市も動き出した。「坂のまちエリアリノベーション」という取り組みが2025年7月から始まった。指定エリアの1つに選ばれた鈴蘭台。新たな魅力づくりと交流機会の創出を目指して、空き家のリノベーションや空き地活用など、民間事業者による取組みを支援し、指定エリア内やその周辺の地域資源、空き家空き地の面的な活用を促す取り組みだ。

作業がもたらす恩恵

作業を通じて自ずとコミュニティが培われる

最近、農業や林業などの作業をする機会に恵まれている。仲間と談笑しながら作業し、一緒にごはんを食べる。そうした時間を過ごすうちに、自然と絆が深まり、作業がいつの間にか「遊び」に変わっていくのを感じる。苦労を共にした仲間の結束力なのかもしれないが、自然の中で汗を流すと、密な人間関係が育まれる。昔の農村集落もまた、草刈りや水路の管理、祭事などを住民が協力して行い、互助の仕組みを通じて村を守ってきたのだろう。

鈴蘭台周辺には菊水山のほか、再度公園や石井ダムなど、山の住宅地ならではの非日常的スポットが日常的にある。「健康を買う」時代だが、鈴蘭台に住めば、ジムに通わなくても、日常の中で楽しみながら健康になれそうだ。

左上:あまり知られていない駅裏の石井ダムへの散策路は自転車も通行可。右上:再度公園への道中では池釣りする方もちらほら。左下・右下:土・日・祝日のみ営業の再度公園の「茶屋 森の四季」を目標に鈴蘭台から走ったり自転車に乗ると楽しみながら運動できそう。

11/30(日)鈴蘭台まちあるき & きたくろすTALK「広がれ!坂道コミュニティ(仮)」

というわけで、「これからの家」へのイメージを膨らませるためのツアーとトークイベントを、僕が拠点にしている鈴蘭台を舞台にして実施します! 募集中物件の見学もあります。ご興味のある方は下記の申込フォームよりお問い合わせください。

■ 鈴蘭台まちあるき 13:00〜

共催:神戸市都市局未来都市推進課/神戸R不動産(株式会社緑青舎)

概要:神戸R不動産・岩崎の案内で鈴蘭台らしい風景や物件を巡り、どんな暮らしができそうかを妄想していただきます。実際に住んでいる方のお宅訪問や、募集中の空き家見学も予定(僕の家も公開します)。

■ きたくろすTALK「広がれ!坂道コミュニティ(仮)」 16:00〜

主催:神戸市北区役所

登壇者:
東大作 自転車好房ラルプデュエズ 代表/北区在住歴(花山・山の街・中里等)
〈活動概要〉「坂アンバサダー」としてサイクリングマップ作成やサイクリングツアーを実施予定

宮辻和貴  神戸親和大学 教育学部スポーツ教育学科 教授
〈活動概要〉2013年より親和大学にて教育、研究活動(テーマ:動作解析・歩行)

柏裕二  北区地域協働課 市民サービス担当 係長
〈活動概要〉趣味であるランニングで北区の坂を駆けている

ファシリテーター:
岩崎大輔 神戸R不動産(株式会社緑青舎) 代表取締役
〈活動概要〉不動産業、空き家活用等を含めたまちづくり

概要:「坂を楽しむ」「まちの魅力再発見」をテーマに、サイクリング・ランニングなどの視点で北区・鈴蘭台を遊びながら健康的に過ごす方法を探るトークイベント。


集合場所:神戸電鉄「鈴蘭台駅」駅前ロータリー *「神戸北警察署 鈴蘭台交番」付近
集合時間:13:00
解散場所:ベルスト鈴蘭台3階すずらん広場(神戸電鉄「鈴蘭台」駅下車すぐ)
終了時間:17:00(予定)
定員:20名 *定員に達し次第、募集を締め切ります。
参加方法:事前申し込み
参加費:無料

お申し込みはこちら!

お申し込みフォームより事前申し込みが必要となり、定員に達し次第、募集を締め切ります。応募多数の場合は抽選になりますことを予めご了承ください。
*鈴蘭台まちあるきのみの参加は承っておりません(きたくろすTALK「広がれ!坂道コミュニティ(仮)」の参加が条件となります)。
*きたくろすTALK「広がれ!坂道コミュニティ(仮)」のみ参加希望の方は、申込不要につき以下をご参照の上、開始時間に集合場所へ直接お越しください。

集合場所:ベルスト鈴蘭台3階すずらん広場(神戸電鉄「鈴蘭台」駅下車すぐ)
開始時間:16:00
終了時間:17:00(予定)
参加方法:申し込み不要 
参加費:無料

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