2011.8.24

 

ビーチシティに佇む文化洋館 –塩屋・旧グッゲンハイム邸–

小泉寛明(神戸R不動産/Lusie Inc.)
 

神戸の中心地から西に電車で20分程度。左手に海を眺めながら進むと、塩屋駅に到着する手前、線路の右手にブルーグリーンの外観が印象的な洋館-旧グッゲンハイム邸-が佇んでいます。塩屋は六甲山脈と海の間に挟まれた阪神間の街の中でも、最も山と海が接近する街。その街のランドマーク的存在がこの建物です。

ブルーグリーンの塗装が印象的な旧グッゲンハイム邸の外観。

経済合理性がないと言われ、美しい建物がどんどん潰されて行ったこの20年~30年。店舗や事務所として賃貸することが難しい場所だと、個人住宅として利用するしか選択肢がないのか? ただ、歴史的価値の大きい建物を継続的に維持管理するということは経済的負担が重く、多くの個人住宅として利用されてきた建物が潰されてきたという現実もあります。もしくは行政がお金をかけた結果「ちょっと違うな~」と思わずこちらが言いたくなってしまうような使われ方になるしかないのか? 自分達で、しかも観光地的な商業主義にならずに、古い価値のある建物を生き延びさせることはできないのか。なんて考えていたら、あったのです。しかも家族経営でそれを実践されているケースが。それがこの旧グッゲンハイム邸でした。

ご自由にお使いください

この洋館は貸スペースとして運営されています。地元の方々の会議場やパーティー会場として、ヨガクラス、音楽イベント、結婚式の会場として、時によってはファッション雑誌の撮影などにも利用されており、多種多様なイベントホールとして利用されています。なんだか心地良いのは、利用方法を限定されて、結果的に沢山のルールに縛られるわけでなく、緩やかなルールのもと「好きに使って下さい」というリラックスした雰囲気であること。築100年を超える素晴しい格式の高い洋館と海を眺めるロケーションを広く地域の方に見て頂いて、使って頂いて、この建物を残して維持して行こうというのが、この建物の管理を現在任されている森本アリさんの根本にはあります。

旧グッゲンハイム邸の庭。旧グッゲンハイム邸は一部シェア住宅としても使われている。右写真は「ジャマイカ」と呼ばれているここの住人のコモンテラス。

地元の風景を残す

奥様と生まれたばかりのお子さん、スタッフの方とともに、住みながらこの洋館を運営されている森本さん。きっかけは、「旧グッゲンハイム邸が取り壊されるかもしれない」という噂を聞いたことでした。維持管理が大変な上、商業的には難しい立地なために、使い道も見いだせないというのがその理由、そして、森本さんは塩屋の代表的な風景となっているこの洋館を残すべく、当時のオーナーに手紙を送ることから始められ、結果、この旧グッゲンハイム邸を取得することになったわけです。

旧グッゲンハイム邸の管理人、森本アリさん。

ただ、建造されてから100年以上が経過するこの洋館の維持・管理は容易ではありません。内装の補修、外壁の塗装、ガラスの補修、庭の樹木剪定など、はじめればキリのない膨大な作業がありました。工事のプロの力を借りるのは最低限に、森本さんはご自身や仲間の手で時間をかけて元あった状態に修復していきました。修復をしながらも、少しずつ部屋を使える状態にしていって、ワークショップ用に部屋をレンタルしたり、音楽家でもある森本アリさんが自主企画する音楽イベントをこの場所で開催したりして、この洋館がレンタルスペースとして使えることが世に少しずつ知れ渡るようになっていきました。

各種イベントに使用されるスペース。ピアノのレンタル、キッチンのレンタルもある。2階からは海が一望できる。

貴重な収益源

旧グッゲンハイム邸はかつて社員寮として利用されていました。その旧社員寮が、現在はシェア住宅として利用されています。共用のキッチンとリビングルーム、シャワールーム、洗面スペースに、個室が10室。入居者は森本さんの知り合いの知り合いといったように、口コミで入居者が集まり、多様でクリエイティブな暮らしが好きな方たちが住んでおられます。部屋は小さくても、大きな洋館と庭と海への景色、豊かな暮らしの場です。
(注 旧グッゲンハイム邸のシェアハウスは現在、一般に募集されておりません。)

シェア住居の共用リビングルームとキッチン。廊下には各種メッセージ。

このシェア住宅は現在の旧グッゲンハイム邸の重要な収入源。安定的に入ってくるシェア住宅の賃貸料とイベント貸しスペースの収益が、この洋館を守っていくための大切な収益源となっています。またできるだけ森本さんご自身で修繕するようにしていることで建物の維持費を抑えられているのも、廉価でこの館が貸し出しできている理由の一つ。使いやすい値段だから、余計に良さが口コミで人から人へと伝わっていきやすく、利用も増えています。洋館を管理運営するには、日々の修繕費が積み重なります。観光地ではない場所にある洋館は重い修繕費から経済合理性がなく、その多くが潰されてきたという歴史があります。でも、ここ旧グッゲンハイム邸では自然体で持続可能な経済循環があります。

塩屋の物件を紹介

絶壁に個性的な建物が建ち並ぶ塩屋の風景。

かつての塩屋の街は、神戸に住む外国人の夏の別荘地として栄えた場所。風光明媚な洋館が今でも点在しています。地価の落ち着いた今、都会に比べたら家賃も格安でありながらも、JR線で大阪まで40分強という環境、そして海を眺める暮らし。仕事場に住処を左右されるのではなく、気に入った場所に住むためにはどうしたらしたらいいのか。そんな方が気にいる場所が塩屋ではないでしょうか。

次回のコラムでは、物件を含めて塩屋の街を紹介します。乞うご期待を!

旧グッゲンハイム邸のHPは以下からどうぞ。
http://www.nedogu.com/

このブログについて
 

山と海に囲まれた街、神戸に移り住み5年。引越魔だった私が神戸に定住できたのは、この街の居心地がとても良いから。 そして神戸で会社を始めたのも、この街に住み続けられる仕事というのが大前提にあったから。居心地のわけをお伝えして参ります。


著者紹介
 

小泉寛明(神戸R不動産/Lusie Inc.)
小泉亜由美(神戸R不動産/Lusie Inc.)
西村周治(神戸R不動産/Lusie Inc.)
岩崎大輔(神戸R不動産/Lusie Inc.)

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